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松山地方裁判所 昭和40年(ワ)413号 判決 1967年8月25日

原告 高岡正彦

被告 合資会社阿部タクシー

右代表者無限責任社員 大森旭

右訴訟代理人弁護士 白石隆

主文

原告の請求をいずれも棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

事実

原告は「(一)、被告が原告に対してした昭和四〇年八月一七日付懲戒解雇は無効であることを確認する。(二)、被告は原告に対し、昭和四〇年八月一七日以降(イ)一ヶ月金三万円の割合による金員、(ロ)毎年七月に金三万円、(ハ)毎年一二月に金四万円を支払え。(三)、訴訟資用は被告の負担とする。」との判決を求め、その請求の原因として、

一、原告は昭和三六年六月被告会社に雇傭され運転手として勤務していたところ、被告会社は原告に対し昭和四〇年八月一七日付で被告会社の就業規則第一八条第三項(8)(会社の承認なしに他に雇はれ又自己の業務を営んだ者)に該当するとして懲戒解雇に付する旨通知してきた。(以下右解雇を本件懲戒解雇という)。

二、しかし、右懲戒解雇の意思表示は、以下(一)、(二)の理由によりその効力を生じない。

(一)  原告には懲戒解雇される事由がない。原告は、昭和四〇年七月八日訴外愛媛いすず自動車株式会社からダンプカー一台を購入し、被告会社の承認を受けずに同月一一日ごろから同月二一日ごろまでの間、訴外松山ブルドーザー建設に雇われて愛媛県温泉郡久谷村附近国道三三号線建設工事現場において、右ダンプカーを使用して土砂運搬の業務に従事したことはある。しかし、右期間中、同月一四日までは有給休暇、同月一五日から同月一八日までは病気休暇であり、その目的も病後の原告の身体がダンプカーの運転に耐えられるかどうか試すことにあったにすぎないのみならず、原告は、この頃すでに被告会社を退職する意思であったが同僚である他の労働組合員えの気がねから被告会社に対する退職届の提出が遅れていたものであって、被告会社に発見された際円満に退職しようと考えていたものであるから、原告の前記行為は被告会社の就業規則にいう二重雇傭に該当しない。仮に二重雇傭になるとしても、原告の右行為は、懲戒解雇に値しない軽微な就業規則違反にすぎない。

(二)  本件懲戒解雇は、不当労働行為である。前記のように原告の軽微な違反行為をとらえて被告会社が原告を懲戒解雇にしたのは、以下に述べるような正当な原告の労働組合活動に対する弾圧報復のためである。即ち、原告は昭和三七年八月末ごろ、原告会社の冷遇に甘んじていた勤務の浅い被告会社運転手二二名を愛媛県自動車交通労働組合(以下県自交という)に加入させた。原告は右県自交の職場委員長の名のもとに主導者としての役割を果し、爾来、組合切崩に対する抗議、賃金誤算の訂正、労働条件の改善、賃上げその他労働協約の締結をめざして組合の中心となって被告会社との交渉にあたり、その活動の優秀さを認められ、昭和三八年の春闘(一〇〇日争議)より県自交本部役員となり、職場の要であると共に県自交全体のリーダーとして闘争を推進してきた。原告は昭和三八年一〇月二九日当時被告会社内にあった第一組合、第二組合の統一結成のため第一組合を県自交から脱退させ、翌三〇日阿部タクシー労働組合を結成したが、その際の組合役員選出にあたっても満場一致で委員長に推挙された。同年一二月八日には被告会社運転手の訴外佐々木計が解雇されたので、阿部タクシー労働組合は、これを不服として愛媛県地方労働委員会に提訴し、被告会社の不当介入により組合員が四二名から一一名に切崩されたけれども、委員長である原告を中心に七ヶ月間の職場並びに法廷闘争を続け、遂に昭和三九年六月一五日訴外佐々木計の職場復帰の勝利をかちえた。そして原告は同年一〇月三〇日から右組合の統制委員長として今日に至ったものである。

そこで、前記(一)の原告の行為は仮に二重雇傭になるとしても軽微な就業規則違反にとどまるものであって懲戒解雇に値するものではないこと、原告が円満に話合いによる退職をしようと申出た際、被告会社が原告の賃金と退職金は県自交脱退のとき原告が借りていた借金と差引くなどという口実をつくり、原告がこれに応ぜず退職の意思をひるがえすと、本件懲戒解雇という苛酷な処分に出たこと、原告を尾行して前記工事現場で原告の写真を写したこと、前述したように過去における被告会社の労働組合に対する弾圧的態度などに照らすと、本件懲戒解雇が不当労働行為であることは明らかである。

三、よって、原告は現になお被告会社の従業員である運転手の地位を有しているので本件懲戒解雇の無効確認と、本件懲戒解雇の意思表示があった昭和四〇年八月一七日以降原告が支払を受けるべき平均賃金一ヶ月金三万円、毎年七月に支払われるべき賞与各金三万円、毎年一二月に支払われるべき賞与各金四万円の支払を求める。

と述べ(た。)立証≪省略≫。

被告訴訟代理人は「一、原告の各請求を棄却する。二、訴訟費用は原告の負担とする。」との判決を求め、答弁として、

請求原因第一項を認める。同第二項中、原告が昭和四〇年七月八日訴外愛媛いすず自動車株式会社からダンプカー一台を購入し、被告会社の承認を受けずに同月一一日頃から同月二一日頃までの間、訴外松山ブブルドーザー建設に雇われて愛媛県温泉郡久谷村付近国道三三号線建設工事現場において右ダンプカーを使用して土砂運搬の業務に従事したこと、原告が昭和三七年八月末ごろ県自交に加入したこと、昭和三八年一〇月二九日県自交を脱退し翌三〇日阿部タクシー労働組合を結成して委員長となり、昭和三九年一〇月一七日から同組合の統制委員長となっていたことを認めるが、その余を否認する。原告の有給休暇は昭和四〇年七月一三日で終了しているし、原告は当初の計画どおり同月二一日頃以降も引き続き松山ブルドーザー建設に雇われて働いていたものであり、重大な就業規則違反をおかしている。また、同組合は組合員が少数のため、原告にかぎらず全員が組合役職に就いている。本件懲戒解雇は、真実原告のおかした被告会社就業規則第一八条第三項(8)違反のために行なわれたものであり、原告の労働組合活動を原因として行なわれたものではないから、不当労働行為ではない。同第三項は争う。

と述べ(た。)立証≪省略≫

理由

一、原告が昭和三六年六月被告会社に雇傭され運転手として勤務していたところ、被告会社は原告に対し昭和四〇年八月一七日付で被告会社の就業規則第一八条第三項(8)に該当するとして懲戒解雇に付する旨通知したことは当事者間に争いがない。

二、そこで、右懲戒解雇の効力につき判断する。

原告が昭和四〇年七月八日訴外愛媛いすず自動車株式会社からダンプカー一台を買受け、被告会社の承認を受けずに同月一一日ごろから同月二一日ごろまで訴外松山ブルドーザー建設に雇われて、愛媛県温泉郡久谷村附近国道三三号線建設工事現場で右ブルドーザーを使用して土砂運搬の業務に従事していたことは当事者間に争がない。原本の存在および成立に争いのない乙第二号証および原告本人尋問の結果によれば、原告は右ダンプカーの買受代金支払のため右松山ブルドーザー建設の経営者川田某と共同で約束手形を振出し、原告が同建設から受けとるべき賃金の中から右手形金が支払われていたこと、結局原告は昭和四〇年一二月まで同建設に雇傭されて働いていたことが認められる(これに反する証拠はない)ので原告が同建設で永続的に働く意思をもっていたか否かはともかく、少なくとも原告の同建設における稼働は、いわゆる一時的なアルバイトとは著しくおもむきを異にし、相当期間継続する予定のもとに始められたものと推認せざるをえず、現実にも本件懲戒解雇時までを考えても右のように相当期間継続している。さらに≪証拠省略≫によれば、原告が被告会社に出勤しなかった期間のうち昭和四〇年七月一五日以降本件懲戒解雇を受けるまでの間は、有給休暇でないことはもちろん、病気欠勤の取扱をも受けえない(被告会社に対しては病気欠勤としての手続をとっていない)欠勤が継続していたことが認められる。右認定を左右するにたる証拠はない。このような形による被告会社以外における稼働が被告会社就業規則第一八条第三項(8)にいう二重雇傭に該当することは疑問の余地がないばかりか、右のような状況のもとでは、本件懲戒解雇に関し被告会社に原告の右行為にくらべてもなおかつ非難されるに値するような違法もしくは不当な行為が存在するなど特段の事情の認められないかぎり、原告の右行為は就業規則の右条項違反として懲戒解雇に値し、本件懲戒解雇は有効と断ぜざるをえない。けだし、二重雇傭は、とくに前示の程度にまでいたった二重雇傭は、およそ人と人との信頼関係をもって始めてその成立と継続が可能となる労働契約の性質を考えれば、被告会社と原告との雇傭関係の継続を著しく困難ならしめる重大な信義則違反と考えられるからである。

ところで、≪証拠省略≫によると、昭和三七年七月ごろ、原告と訴外佐々木計らが中心となって被告会社従業員である運転手二二名を県自交に加入させ(原告が右組合に加入したことは当事者間に争いがない)、原告は被告会社における職場代表者であったところ、その後被告会社側の組合切り崩しに遭い、一時は被告会社における組合員は八名に減ったが、右組合切り崩しに対する抗議、職場改善、労働協約の締結などを目指して被告会社との間に昭和三八年四月以来長期にわたるいわゆる一〇〇日争議が行われ、原告は右争議の中心となって被告会社と交渉を行ってきたこと、その後昭和三八年一〇月ごろ被告会社従業員は県自交を脱退し、新たに阿部タクシー労働組合を結成したが、その際にも原告は同組合の委員長に選任され昭和三九年一〇月まで勤めていたこと(このことは当事者間に争がない)、昭和三六年ごろ愛媛県地方労働委員会に申立てた訴外佐々木計の解雇に係る不当労働行為事件についても原告が中心となって活動していたことなど、終始原告が組合活動の中枢的地位を占めていたことが認められるけれども、本件懲戒解雇が右のような原告が組合活動をしたことの故になされたとの原告主張の事実に副う証人野本和明及び同佐々木計の証言並びに原告本人尋問の結果は証人田中耕作の証言に対比して措信し難く、他に右主張事実を認定するに足る証拠はない。してみると右解雇は前記認定のとおり原告の無断欠勤による訴外松山ブルドーザー建設への二重雇傭を理由としてなされたもので、右二重雇傭はそれ自体懲戒解雇を正当付けるに値し、本件においてもそれが本件解雇処分の動機であったと解するのが妥当である。

三、よって、被告会社の原告に対する本件解雇処分は正当であって有効というべく、原告の各請求はその余の判断をするまでもなくすべて失当であるからこれを棄却し、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第八九条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 安芸保寿 裁判官 伊藤滋夫 宗哲朗)

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